Ishi

© HILLSIDE TERRACE 33

石と生きる Living with Stone

石は、火山活動や地殻変動の中で数千万年の時間の層を内包しています。その密度、色、肌理は産地によって異なり、自然が刻んだ唯一無二の風合いを持ちます。
建築においては、基礎・構造材から装飾材まで幅広く用いられ、近年は環境に負荷をかけないローカルマテリアルとして注目されています。石を扱うという行為は、自然の力を借り、共存する術を知ることに他なりません。

青みがかった美しい大島石は、国内でも特に高く評価される石材の一つです。細やかな粒子と均質な質感を持ち、耐久性や磨耗性にも優れていることから、建築や記念碑などに広く使われています。磨かれた表面の艶やかさは、年月を経ても色あせることなく、静かな存在感を放ちます。人の手によって切り出され、磨かれ、組まれることで、石は再び新たな時間を刻みはじめます。それは単に硬い素材ではなく、大地の記憶を静かに語る存在でもあります。

石と対話する技 Crafting Stone

石工は、石を読み、削り、積み上げる職人です。
硬い素材に対峙しながらも、割る方向や力の伝わり方を感覚で捉え、無駄なく美しく仕上げていきます。道具の音と粉塵の中で、彼らは石の声を聴き、その内なる形を見極めていきます。手で触れたときの温度、重量感、そのすべてが空間に「永続性」をもたらす。石の建築には、時間を超える静かな力が宿っています。

石はその硬さに反して、職人の手によって命を吹き込まれる素材です。切り出す際には、石の内なる脈や模様を読み解き、その性質に合わせて削り進める技術が求められます。ひとつひとつ形を整える職人の技は、自然と対話しながら進行します。その力強さと美しさは、時間を経ても変わらずに存在し続けます。

左官 Sakan

地層を塗る Painting with the Earth

漆喰は、石灰石を主成分とした塗り壁材で、日本では古くから城や蔵、民家などに用いられてきました。
その源はかつて海底だった地層にあり、堆積した貝殻や珊瑚などが長い年月をかけて石灰岩となり、さらに加工を経て漆喰として用いられます。つまり、漆喰とは太古の海の記憶をそのまま宿した素材といえます。
石灰石の、水と反応して硬化する性質は、地中海沿岸や中東などでも古代から建築に利用され、いわば人類最古の壁材のひとつと言えるでしょう。呼吸する壁とも称されるように、調湿性・防火性・抗菌性に優れており、現代においても持続可能な建築素材として再評価されています。

風土が宿る Plasterwork

職人の経験と感覚が宿る手技で丁寧に塗り重ねられた壁面は、やわらかな陰影を生み、空間にあたたかみと豊かな表情をもたらします。天候の変化を読み取り、素材の配合を調整する繊細な感覚の積み重ねが、経年によって風合いを深め、使うほどに味わいが増していく空間をつくり出します。

漆喰は、自然素材である消石灰や水、天然繊維などから生まれます。白さや質感は、石灰石の産地や成分によって左右され、地域ごとに異なる表情を見せます。左官の手を通して、その地の風土が壁面に現れ、空間に「塗る大地」としての個性を与えます。施工後も石灰は空気中の二酸化炭素を取り込みながら硬化するため、「呼吸する壁」ともいわれます。

鋳造 Chuzo

自然を形にする Shaping Nature

鋳造は、古代から続く金属加工技術で、自然界の鉱石を精錬し、溶かして型に流し込むことで新たな形を生み出します。
この技術は、金属の流動性と冷却過程を利用して、硬さや強度を持つものを創り出す力強い手法です。その原始的でありがなら力強い性質が、建築や芸術、工業などさまざまな分野で活用されています。

鋳造に使用される金属は、鉄、銅、青銅などがあり、これらは鉱山で採掘され、溶かして型に流し込むことで成形されます。金属鉱石が豊富に埋蔵された地域、特に鉄鉱や銅鉱の産地では、この技術が古くから使われてきました。

意志を鋳る Casting Intentions

鋳物職人は、まず型をつくるところから始めます。砂型やロストワックスなど、用途によって工法を選び、素材の流動性を計算した上で一発勝負の鋳込みに挑みます。火を扱う現場は危険も伴いますが、彼らはその熱と向き合いながら、思い描いた形を現実のものに変えていきます。溶けた金属が冷え、固まり、磨かれた瞬間、そこに現れるのは、道具ではなく「意志」のかたちです。

砂型鋳造やロストワックス鋳造といった精密鋳造技術を駆使し、鉄・アルミ・銅合金など多様な金属を自在に操っています。単に金属を成形するのではなく、設計者やデザイナーと協働しながら、表面の質感やエッジの繊細さまでこだわり抜くその姿勢は、まさに現代の鋳物職人の魂です。重さや質感を通じて、素材と人の関係を問い直す「触れる構造体」として建築の中に現れます。

Tou

土と火の対話 Dialogue of Earth and Fire

陶とは、土を練り、形をつくり、火で焼く。人間と自然が対話する最も原初的な行為の一つです。陶土の選定、釉薬の配合、焼成温度の調整。すべてが繊細なバランスで成り立ち、偶然と必然が重なり合って唯一の表情が生まれます。
建築においては、瓦やタイル、装飾部材として多様に用いられ、その焼き締められた肌は、雨風に強く、美しく歳を重ねていきます。

有田焼は、佐賀県有田町を中心に発展してきた日本を代表する磁器の産地です。白くて硬く、透明感のある磁器を焼くために欠かせない鉱石は、有田焼の美しさの原点です。周辺の地形は山深く、水も良質で、陶土の精製や窯業に適した自然環境が整っていました。歴史的な焼成には「登り窯」などを用い、急峻な地形を活かした工夫も見られます。

土を操る技術 Mastering the Clay

ろくろや型を使った成形では、最終的に指先の感覚が仕上がりを左右します。さらに、焼成時の火の動きや加減を見極める力も重要です。器づくりを通じて磨かれたこうした技術と経験は、微細な歪みや色の変化を生み出し、陶ならではの奥行きや風合いを引き出します。こうした感覚は建築にも活かされ、単なる部材ではなく空間に豊かな質感を与えます。

有田焼は、白く不純物の少ない天草陶石を主に用いてきました。その高い白色度と均質性は、有田の美しい発色や繊細な質感を支えています。今回使用したタイルでも、釉薬の配合や焼成温度のわずかな違いで色味や質感が大きく変化するため、狙った仕上がりを得るまでに何度も試作を重ねました。こうして生まれた表情は、土地の素材と技術が空間に個性をもたらす証とも言えます。